セーターと母と仲間と (16) 梅じゃない

  • 2016.05.29 Sunday
  • 23:53

miko-mikuは聞きました。「あれ、『先生よく褒めてくれる』と言ってたじゃない。」

「そう。最初の頃は、『すごく上手』とか『飲み込みが早い』とか褒めてくれて、
『センスが良い』とも言ってくれてたんだけど…」

「急に厳しくなっちゃったんだ。愛のムチかな。」

母の言わんとするところはなんとなくわかってしまったので、
敢えて茶化して言ってみましたが、母は真顔でした。

「厳しいっていうか、『こんなのダメ』とか『なってない」とかね。」

「技術的なこと?」

「そうじゃなくて、多分デザインのこと。」

「ああ」

「花とか物とか毎回課題があって、布に自分のイメージで描くんだけど。」

「『こんなのダメ』って?」

「そう、『こんなの梅じゃない』とか『そん形はあり得ない』とか…。」

  * 

うーん、難しい状況です。
最初は、初めて習うにしてはよくできると思われたと思うけど、
もしかして…よくでき過ぎちゃった? 
でもたとえそれが不都合だったとしても、それは母のせいではないし。

  *

「難しいね。デザインって人それぞれのところもあるし、変って言われてもねぇ。
でも、そもそも入門クラスでしょう。初歩の人は褒めて育てなくちゃね〜。」

そういう次元の話ではないことは重々わかっていたけれど、
他に言いようもなく…。
なんだかがっかりしました。
お母さん、何十年も工芸に親しんできて、
せっかく新たに打ち込める美しい世界を見つけて
喜びに満ちていたのに。

  * * *

そんな教室でのことを聞いてしばらく経ったある日、
母が珍しくウキウキと教室から帰って来ました。

「今日は調子良かった?」miko-mikuも様子を聞きたくなりました。

「今日ね、大先生が教室にいらしたの。」

(続きます)
 

セーターと母と仲間と (15) 入門

  • 2016.05.29 Sunday
  • 22:46

染色教室の運営を含め、事業としてもその人気の染色家の活動は多岐にわたり、
miko-mikuも母に連れられて大きなホテルでのきらびやかな
ファッションショーを観に行ったりしたこともありましたが、

母としては、そうした華やぎの部分を愛でつつも、
とにかく染色の基本的な技術を早く習得し、いずれはその工芸家が生み出した
染色の既成の概念を超えた独特の染めの美を、自身の創作活動の中で
深めて行きたいという夢を持ったのだと思います。

ただ、教室の運営を含め、組織にはその人気の工芸家を頂点とした
強力なピラミッド型の階層分けがあり、
母は一番初歩的な入門クラスから、なかなか一つ上に
移ることができませんでした。

  * * *

いろいろな工芸に親しんで来た母でしたが
染色は初めてでしたから、入門クラスから始まったのは当然のことでしたが、
同じ教室の生徒さん達はもちろん、担当の先生を初め講師の方々にも
「とても上手」「初めてとは思えない」と褒められたと言っては
毎回うれしそうに帰って来ていました。

それまでの母の創作活動を間近で見てきたmiko-mikuとしては
先生方のお褒めの言葉も単なるお世辞ではないと思えましたが、
いずれにしても、母自身は新しく踏み入れた工芸の世界の学びを
純粋に楽しんでいて、その意味でうれしそうな母を見るmiko-mikuも
また心うれしくなるのでした。

  * * *  

ところが、しばらくすると教室から帰って来た時の表情が冴えなくなりました。
「スランプ?」と冗談めかして聞いてみたりしてもしばらくは
苦笑いするだけでしたが、とうとうある日ぽつりともらしました。

「クラスの先生がね、最近お母さんに厳しくて…」。

(続きます)
 

セーターと母と仲間と (14) 工芸に親しんで

  • 2016.04.11 Monday
  • 23:52
「何か聞かれた?」

「ううん、『体調崩して休んでいます』とだけ言ったから。」

「そう…。でもありがとう。気になっていたから、よかった。」

   * 

「お月謝を持って行ってくれてありがとう」という母の言葉を聞いて、
染色の習い事のこと、病気で中断することになって
きっと思うことがいろいろあるのだろうなと…

miko-mikuも、思い出すまいと思うのですが、
やっぱり悔しい気持ちがこみあげてきてしまいました。

  * * *

母は工芸の七宝焼を長くやっていて、
家に小さな電気炉の窯を置いて人に教えてもいました。

独特の釉薬の色使いでセンスの良さがうかがえ、
アクセサリーの依頼がよく来ていました。
10年以上出品していたキリスト教関係のバザーでは、
毎回必ず母のところに立ち寄り買い求めてくださる
ファンのような方もいました。

  * * *

母は病気になる2年程前から、当時人気絶頂の、
染色工芸家の主催する染色教室に通っていました。
一通りの基本的な技法を学んだ後、
絹の反物に手描きで模様を入れていき、
完成すると着物や帯に仕立ててもらいます。

それまで七宝焼の他にも、銅版画や革細工などいろいろ手がけた工芸の中でも、
染色は特に関心が深まったそうです。
「本当に面白い。やり甲斐がある」とよく言っていました。
これからはこれを究めてと、とても一所懸命勉強していたのです。
本当にうれしそうでした。

  * * *

ところが、通い始めてしばらくすると、
母は教室に行くのがなんとなく
憂鬱そうになってしまいました。

(続きます)
 

セーターと母と仲間と (13) 母の気持ち

  • 2016.03.25 Friday
  • 08:53

「すごく進んだね〜。」

ベッド脇のイスに座り、miko-mikuは母が編む手元を見ながら話しかけました。

「模様編み入っていないから、ただ編んでいくだけだから楽よ。
白のモヘヤにしてよかったわね。きっと良い感じのになるわよ。」

母にそう言ってもらうと、miko-mikuとっても嬉しい(*^^*)。

   heart

母も一休みといった感じで編み棒を置き、笑いながら答え、続けました。

「でも、さすがに親睦旅行までに完成は無理よ。」

miko-miku、急いで答えました。

「もちろんだよ。そんな、もう…。反省してる。疲れちゃうのにお母さんに
無理させちゃって。旅行はもちろんセーター着ていかなくていいし、
とにかく無理しないで。」

「でも楽しいわ。痛くて困っちゃう時あるから、気が紛れていいのよ。」

   heart

笑いながら言う母でしたが、miko-mikuはドキッとしました。

「痛いの…。」

「前ほどじゃないけれどね。時々あちこち痛くなるから困るのよね〜。」

きっとすごく痛いのだと思います。

余計な含みを持たせず、さらりと、でも真っ直ぐに言葉を紡ぐ母に、

miko-mikuはただそれを繰り返すだけで精一杯でした。

「そうだよね…。痛いのは、困っちゃうよね…。」

母が話題を変えました。

 docomo docomo docomo

「染色のお月謝ね、届けてくれてありがとうね。」

「ん? ああ、あれはただ持って行っただけだから。」

「でも、気になっていたからよかったわ。ありがとう。
 何か聞かれた?」

(続きます)

 

セーターと母と仲間と (12) 魔法の手

  • 2016.03.19 Saturday
  • 23:38
母が引き受けてくれた手編みのセーターは
実際驚くほど編み進められていてきらきら

模様編みではない、同じシンプルなメリヤス編みのはずなのに、

miko-mikuが編んだところと母の編んだ部分は
出来栄えがまったく違っていて

そういう意味ではボーダー柄の模様のようになっていました…

heart heart heart heart heart

料理も裁縫も何もかも本当に上手で、

美味しいおやつのお菓子や
miko-mikuの子どもの頃の洋服や
時には内職の飾りカゴさえも

それはそれは美しく創り出すその手を
母の体にもたれかかって
いつも覗き込んでいたmiko-mikuでした。

双葉 双葉 双葉 双葉 双葉

それなのに、間が悪いというか、肝心な時に大失敗をする子ども…涙

出かける朝、母に作ってもらっていたお手製のベストが完成しました!
真っ赤な別珍の生地に、黄色の刺繍糸で蝶のラインステッチが入って
子どもながらにうっとりするほど素敵なベストキラキラ

白いブラウスの上に着て、もううれしくてたまりません。

「先に外に出て待ってるね」と飛び出した後の事は
正直言ってよく覚えていないのです。
ただ心がとっても弾んでハミングしながら大きくスキップしていました。
家の前の急な下り坂で…。

気がつけば道の脇の側溝にダイブというか転げ落ちたというか

ほどなく戸締まりをして外に出た母の前に情けない顔で立っていた小2の娘は
全身泥だらけで、ついさっきまで急いで仕上げて完成したはずのベストも
変わり果てた姿になっていて

さすがにこの時は猛烈に怒られました(^_^;)。

heart heart heart heart heart

ベッド脇のイスに座って
泥だらけの真っ赤なベストとバツの悪さに1人思い出し笑いをしながら、
編み棒を動かす憧れの母の手にじっと見入っていたmiko-mikuでした。

 

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