セーターと母と仲間と (5)想い

  • 2016.02.07 Sunday
  • 23:50
「がんです」と具体的な病名の告知を受けていなくても、
母は多分すべてわかっていたと思います。

病院の先生のお話は父が1人で聞いていました。
余命についての告知のことも多分あったでしょう。

miko-mikuは、何かとてもたいへんな事が起こっていることは重々わかっていましたが、
でも、たとえ何かを聞いたとしても、自分がその事に対して何かできるわけではない。
大学病院への入院は、どなたかの紹介で、配慮をもってなされたことでした。
今のようにインターネットで気軽に病気の知識を得られる時代ではなく、
セカンドオピニオンという言葉もありませんでした。

医療はその時ベストと思われる治療をしていただいている。

自分のやるべきことは、母が言う通り、

仕事もやめずに、お稽古事もなるべく休まず通い、

なかなか病院の食事が進まない母に、
少しでも何か食べられそうなものを作って持って行くこと。

いつもmiko-mikuが、
「今日はね、こんな事があって、あんな事があって」と夢中で話すのを、
可笑しそうに笑って聞いてくれていた母に、
今こそもっともっと笑ってもらいたい。
少しでも辛いのが和らいでほしい。

とにかくいつもどおりに。普段どおりに。
20代前半の精神的な修養もないまったくの子どもでした。
目の前の、自分にできることだけに専心してやっていれば
このまま母との時間はきっと続く。
信じて疑わないmiko-mikuでした。

* * * * *

でも、母は明らかに調子が悪くなっていっていました。

ある日、父と二人で居間にいる時でした。
父は新聞を読んでいて、miko-mikuは雑誌を見ていました。

父が言いました。

「お母さんな、難しい状況みたいだ。」

miko-mikuは父の方を見ることができませんでした。
顔を上げて父を見たら、泣いてしまうと思いました。

一番たいへんなのはお母さんだから、

miko-mikuは絶対泣いてはいけない。

そう自分に誓ってずっと我慢してたけど、
絶対信じたくなかったけど、

どこかではわかってた。 

* * * * *

すぐには返事ができませんでした。
でも、一瞬不意に思えたけど、
お父さんはmiko-mikuに伝える時期をずっと考えていてくれたはず。

「うん」

雑誌に目を落としたまま、小さくそれだけ答えました。

言ったら涙が湧いてきて、ぽたっと雑誌に落ちました。

「お母さんには言ってないから」

下を向いたままで、また涙がぽたぽた。

「うん」

miko-mikuは単純。バカ。
その時、突然すごいパワーがうねりのように湧いてきました。

そうかもしれないけど。
でも、大丈夫。

お母さんはmiko-mikuが守る。

何も変わらない。

明日もいつもどおり
お母さんとこ、行こ。

気がついたら涙は止まっていました。

* * * * *

その時父と交わした言葉はそれだけでした。

父はまた新聞をめくり始め、
miko-mikuは雑誌を読もうと思ったけど、
ページも顔も泣いた後でぐしゃぐしゃで、
何がなんだかわからなくなったら

なんだか可笑しくなってしまった夜でした。

 
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