バスの中で
バスに乗って出かけた日のことです。
一番後ろの横一列の座席に座っていると、中年の外国人の男女が乗ってきて、私の横に座りました。
座る前に微笑みながら軽く会釈をされたので、私も軽く頭を下げて、横は十分空いていたけれど、お二人が座りやすいように反対側に少しずれました。
ほんの小さなことなのですが、お二人の微笑みは同じその場を共有させてくださいという柔らかいサインのような感じがして、なんだかほわっとするようなうれしい気持ちになりました。
聞くとブラジル人のご夫婦とのこと。片言ですが日本語でいろいろお話ししてくださいました。「ニホン スキデス。ニホンジンハ シンセツデス」。
しばらくすると、その最後部の席の私と反対側の窓際に座っていたおばあさんが降りる準備を始め、立ち上がりかけました。
すると、ブラジル人のご主人が腕を伸ばしておばあさんの背中の方に手をまわし、触れはしないけれども、おばあさんがよろけて倒れないようにそっと守ったのです。そして
「ダイジョウブデスカ。ユックリネ、キヲツケテ。」と優しく声をかけました。
日頃バスや電車の中で、お年寄りや体の不自由な人が乗っていて、あ、大丈夫かなと思うことはあっても、なかなか声をかけたり、実際に手伝ったりするところまではできないものですよね。そのブラジルの方のエスコートは、ものすごくさりげなく自然であたたかく、本当に心からされているのだなあと思いました。
おばあさんが降りてから、私はご主人に
「すごいです。日本人は人の目を気にしてなかなか声をかけることができません」
と言いました。ご主人はそれには答えず、ただ
「オバアサン、バスノナカアブナイデス。シンパイデス」とだけ返されました。
おばあさんも、外国人に突然言葉をかけられたことにも驚かず、
「はい、ありがと」と、ブラジル人のご主人の腕を頼りに座席前のステップを降りました。
おばあさんの自然な対応にもありがとうと言いたい気分♪
いつも乗るバスの中での、ちょっと特別なあたたかい出来事。
とても幸せな気持ちで街に出ました。
この記事は、ジュゲムブログ「ご一緒しましょ!」に
2015年2月に投稿した『バスの中で』に、
若干の修正を加えたものです。
ブラジルの紳士のやさしい笑顔を思い出します。
今日も奥様とバスでお出かけされているかな。